『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』を読みました。
『ファスト&スロー』のダニエル・カーネマンによる著書。
人間の判断がいかにノイズまみれであるかを解説し、それに対処するための方法を提示している。
エラーだらけの判断
人の判断はエラー、間違いだらけだと本書は力説する。
前作、ファスト&スローでもこの点は論じられた。
直感的判断(システム1)による間違いや多様なバイアスの存在である。
今作ではエラーの構成要素であるノイズについて注目する。
それは前作で多く語られたバイアスとは異なるものだ。
ノイズとバイアスの違いを簡潔に説明しているのが次の図である。

これは5人1組で構成された4チームが中心の目標を狙って射撃した結果の図である。
チームAの射撃は全体的に目標に近いのでよい結果だといえる。これはノイズもバイアスも少ない。
チームBの結果はばらついていはいないが全体的に左下にずれている。このように一つの方向にずれるのがバイアスである。
チームCの射撃は目標を中心としてだいぶちらばっている。狙う箇所はずれていないが、ばらつきが大きい。これがノイズである。
チームDは左下を中心にしてばらつきも大きい。これはバイアスもノイズも大きいパターンだ。
これを人間の判断に置き換えてみよう。
何か正解があって(目標)、それに近くなるように何らかの判断をする。
判断結果は目標からずれている場合あり、判断する時間、人間によってばらつきもある。
これが判断のバイアスとノイズだ。
ノイズの測定
ここで一つ重要なポイントは判断の正解(目標)が分かってなくても判断のノイズは測定できることである。次の図を見てみよう。

この図には目標の位置は書かれていない。そのため、目標からのずれであるバイアスがどの程度あるかは分からない。
目標の位置が分かっていなければどれだけ差があるかは分からないからだ。
ただし、バイアスが分からなくても判断のばらつきがどの程度あるかは分かる。
結果として、目標が分からなくてもノイズが大きいか小さいかは分かるのである。
これはノイズの研究を進めるうえでとても重要だ。
人間の判断の結果には正解がわからないものが多い。
裁判官が被告人の量刑を決める、難民申請の許可・却下を決める、保険金の支払い金額を決める。
これらのような判断のケースにおける真の正解というのはわからない。
しかし、さきほど説明したようにこれらの場合にもとノイズは測定できるのである。
本書ではこの原則を利用して様々な判断の結果について調査をし、人の判断がノイズだらけであることが明らかにした。
裁判官は人によって同じ被告人に対して最大10年の差のある量刑を与えたり、難民申請の80%を許可する審査官もいれば、10%しか許可しない審査官もいた。
企業における採用活動、人事評価、警察による指紋一致判定、専門家による経済予測、専門医による診察、さまざまな場所でノイズの存在が明らかになった。
感想
『ファスト&スロー』は五年前くらいに読んでとても感銘をうけたので本屋で見つけてすぐに購入。
上下の二冊構成だったし内容的にも読むのに時間がかかりそうだなぁと思ったけど意外とさくっと読めた。
thekingsmuseum.info
前作と同じで、自分の意思決定がいかに間違いだらけを突きつけられるので、自分の意思決定に自信がなくなる。
もちろん、自分の弱点を知ることはよいことだし、それを補うための方法がきちんと提示されている点が救いかな。
ノイズを減らす方法としてアルゴリズムを使う方法が紹介されている。
比較的簡単な機械的手順を決めるだけでも大幅にノイズを減らすことができる。
ただ、人間の判断を完全に無くすのではなく、それらをノイズを減らすツールとして使って意思決定することが推奨されている。
前作では、経験する自己と記憶する自己の話でちょっと哲学的な話があったのでおもしろいと思った。
今回も「ノイズを減らす・なくす」ことが、本当に正当化されるのかみたいな話は少し哲学的で興味深かった。
個別の状況を汲まずに機械的に判断することは人間を尊重せず尊厳を奪うことになるのではないかという話(特に裁判とかね)。
自分は結構功利主義的な考え方をしてしまうので、ノイズが減るならいいじゃんと思っちゃうタイプだけど、確かにそういう視点もあるなと思った。
サンデル教授の『実力も運のうち?』で、テクノクラート的政治は人間の尊厳を奪うという話もあったし、必ずしも社会にプラスじゃないこともあるんだなと。
ファスト&スローの方が読み物としては面白くて、今作はひたすらノイズの話なのでちょっと地味な感じだけど、人間の意思決定に興味があるなら読んでみてもいい本かもしれない。