The King's Museum

ソフトウェアエンジニアのブログ。

『幸福論』を読んで

バートランド・ラッセルの『幸福論』を読みました。

大学生の頃、ちょうど15年くらい前に読んで感銘を受けた本。 30代も半ばを過ぎ、四捨五入すると40になるタイミングで人生について考えることが多くてもう一度手に取ってみた。

原題である The Conquest of Happiness が示すように、幸福は個人の努力によって獲得可能であると説く。 幸福は社会的な環境と個人的な環境の両方が満たされて実現するものだが、この本では個人の環境に焦点をあてている。 あくまで、基本的な衣食住が満たされつつも幸福になれない人たちについて論じていて、そうでないような場合はこの本では論じていない。

内容は不幸の原因と幸福の要因について章立てで書かれていて、少し冗長な気もするがだいぶ読みやすく書かれている。

  1. 不幸の原因(第一部)
    1. 何が人々を不幸にするのか
    2. バイロン風の不幸
    3. 競争
    4. 退屈と興奮
    5. 疲れ
    6. ねたみ
    7. 罪の意識
    8. 被害妄想
    9. 世評に対するおびえ
  2. 幸福をもたらすもの(第二部)
    1. 幸福はそれでも可能か
    2. 熱意
    3. 愛情
    4. 家族
    5. 仕事
    6. 私心のない趣味
    7. 努力とあきらめ
    8. 幸福な人

以前読んだときはずいぶんと感銘を受けたけど、改めて読むと感銘を受けるほどでもないかな、という感じだった。 1930年に書かれた本だから、どうしても現代と事情が違う点がちらほらあってあまりしっくりこない。 それでも、女性について述べられた部分はそれなりに先進性があったなと思った。

この本の主要な主張として「関心を内へ向けるのではなく、外界にふりむけて興味を幅広くもつこと。それが幸福への道である。」というのがあるけど、現代社会ではどちらかといえば逆なのではないかと思った。

1930年はコンピュータもなければ、インターネットもない。当然スマホもなければ Google も SNS もないわけで。 その時代、特に田舎に住んでいたら外界の情報にアクセスすることにとても苦労したはずだ。 本書の中でも知的な青年が田舎で暮らすのは知性を使う場面がなくて不幸だ、みたいな記述がある。 そのような状況下で仕事も定型的なものだと自然と内的なものに関心が向きがちになり、外的なものに関心を持つようにというアドバイスは的を射ている。

一方、現代社会は遠くの世界の情報まで簡単に手に入れることができる。 インターネットがあればどこにいても外的な情報にアクセスできる。 自然と外界の情報に目が向きやすくなり、それによって不幸になってしまうことが多々あるのではないか。 だから、最近はもっと自身の内的なものに目を向けるべきだ、という主張がよく目につく気がするな。

そうえいば、同じ時期にラッセルの『論理的原子論の哲学』というのも読んだんだけど、ちっとも理解できなかったなー。 こういう本を読むこと自体に悦を感じていただけだったような気もする。若気の至りだったのかもしれないね。

『WORLD WITHOUT WORK -- AI時代の新「大きな政府」論』を読んで

『WORLD WITHOUT WORK -- AI時代の新「大きな政府」論』を読みました。

AI や高度化するロボットによって、人間の仕事が奪われていく社会について論じた本。 歴史を振り返れば、産業革命などの同じような状況はあったが、そのたびに経済が成長して新たな仕事が創出されてきた。 筆者は AI の登場によって今度こそ人間の仕事が奪われていくと主張する。

それは一夜にして世界が変わるということではなく、じわじわと人間の仕事を浸食していく。 これまで富の分配を労働市場に頼っていたが、それが機能しなくなる。 その結果、今進んでいる経済格差がさらに急激に進むだろうと結論付けている。

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自分自身のキャリアについて考えたとき、当然、自分の仕事がいつまであるのだろうと考えることがある。 それに対してどうやってアクションしていくかということを期待して読み始めたけど、個人がどうするべきかということはあまり書かれていなかった。 それよりも、人間の仕事が減っていき労働市場によるパイの分配が機能しなくなる中で、社会はどうやってこの危機を乗り越えていくべきかということが書かれていた。 本を読みながら「我ながら視野が狭かったな」と少し反省した。

本書の後半ではいわゆる大きな政府が必要ということを明確に主張してるのは興味深い。 最近はそちらよりの主張の本を読むことが多くて、自分はあまり大きな政府派じゃなかったけど少し考え直した。 どちらかといえば経済成長や市場原理を信じてきたけど、社会の状況を見るとそれだけじゃあまりうまくいかないのかな、と最近感じている。

むしろ、最近は経済成長や市場原理をあまりに声高に主張されるとちょっと身構えてしまう。 もちろん、計画経済みたいなのがうまくいくとは思ってないけど(本書もそういう論調)、一方的な経済成長・市場原理神話は崩れてきたのかなと思っている。 これまでうまく機能してきたことがこの先も機能するとは限らないしそろそろ何かアップデートが必要なのだろうな。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読んで

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』を読みました。7月の読書。

Kindle のセールで安くなってて、おすすめのトップにでてきたので買ってみました。 地球を救う SF 小説です。 著者はアンディ・ウイアーは『火星の人』という SF 小説でとても有名みたい(映画化もしたとか)。

とても読みやすくて話の展開のテンポがいいのでがんがん読める。 上下巻に分かれているくらいなので薄い本ではないけど、あっというまに読み終わった。 ネタバレだけど、ハッピーエンドで終わるので読み終わったあとの爽快感もあってとてもよい。

去年、三体の一作目を読んだけど、それと比較すると重厚感はちょっと劣るかなという感じ。 深いところでの世界感みたいなの三体はとても感じられたなぁと改めて思った(三体の続編読んでない)。

読書好きなら小学校高学年くらいから読めそうで、夏休みの読書にちょうどいいんじゃないかな。 高校〜大学の初級物理くらいの知識があるとさらに面白いと思うけど、そういう細かい科学的記述は理解できなくてもストーリーは楽しめると思う。

唯一の欠点は主人公があまりに超人過ぎて現実感がちょっと薄すぎたかなw SF だから現実感求めてもしょうがないんだけどね。 さくっと読むのにおすすめです。

10年物の Intel SSD から Crucial P5 M.2 SSD に移行した

メインで使ってる Windows PC が気づけば 10 年選手になっていて、マザボと CPU とかは数年前に変えたのだけど OS が入ってる SSD はずっと使っててそろそろ寿命がくるんじゃないかと思って Crucial の M.2 SSD に移行した。(使用時間を調べてみたら2万時間を突破してた)。容量も 256GB しかないのがちょっと不便だったし。

買ったのは Crucial の P5 Plus NVMe SSD 1TBモデル の CT1000P5PSSD8JP。1TB で 1万5000円くらい。

より廉価な P2 シリーズにするかハイエンドの P5 シリーズにするか迷ったがまたどうせ 10 年くらい使いそうだから性能がいいほうにしておいた。(残念ながら自分のマザーボードは PCIe gen4 に対応してないけど、マザボ買い換えるかもしれないし)

P5 シリーズの方は多少、熱対策をしなければいけなくてついでにヒートシンクも合わせて買った。

移行は Crucial が提携してる Acronis True Image for Crutial を使って 20 分くらいで完了した。 有償ソフトを使わないといけないかなと思ったけど無償で提供されていて感心。 動画で紹介してくれてる人もたくさんいてこういうことが気楽にできる世の中になって素晴らしいね。

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容量が 256GB だったのが 1TB になり、速度(特に書込み)も相当はやくなった。技術の進歩はすごいね。

Intel SSD 335 Series

Crutial P5 Plus NVMe M.2 SSD

あとは、データ保管用の 1TB HDD もそろそろ寿命感があるので移行予定。

『給料はあなたの価値なのか -賃金と経済にまつわる神話を解く』を読んで

『給料はあなたの価値なのか -賃金と経済にまつわる神話を解く』を読みました。

この本は給料に関して世間で広く信じられている『給料はその人の市場価値や個人の仕事の成果によって決まる』ということは神話だと断言する。

内容は下記の書評に譲るとする。よくまとめられていてすごい(小並感)。

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

けっこう eye opener なことがたくさん書かれていた。

現代において給料に関しては経営者(使用者)側がいかに有利な立場にいるかが強く主張されている。 たとえば、労働者はお互いの給料を知らないことが多く、公平な市場原理を説くことが多い経営側の人間はその点で矛盾している(価格が公開されない市場は公平ではない)。 他にも、シリコンバレーの巨大 IT 企業がエンジニアの引き抜きを禁止しあう密約を結んでいたことは記憶に新しい(これも明らかに公平な市場ではない)。

自分は給料は市場価値に基づくという神話を信じていたけれど、この本を読んだあとは本書で述べられている四つの要因(権力、模倣、慣性、公平性)の方が深く関わっているなと思った。 逆にいうと自分の給料を守っていくという意味でこれらの要因を知ることができたのはよかったのかもしれない。 無邪気に市場価値や個人の成果をあげていても給料には結びつかない。

よく言われる「賃金の上昇と引き換えに雇用が守られている」というのもどうやら神話のようだ。 そういう人的資本モデルや市場原理モデルを脱した新しい給料に関する理論が書かれていたのでおもしろかった。 あと、やっぱり労働者としては労働組合があったほうが多くの点で有利だよね、というのは納得だった。

攻殻機動隊 SAC_2045 シーズン2を見たよ

攻殻機動隊 SAC_2045 シーズン2を見た。

www.ghostintheshell-sac2045.jp

最後、どういうオチになるんだろうと思ったらまさか人類が進化を遂げるというかたちで終わるとは。 舞台設定がほとんど 2nd GIG と同じだったのはわざとなのかな。 核、米帝、難民、カリスマの存在、人類の上部構造への移行、、、ほぼ同じやない?

感想としてはちょっとストーリーが雑で話が浅かったかなぁと感じた。 1A84 もあまり深掘りされなかったし、サステナブルウォーも世界同時デフォルトという設定もあまり生かされてなかったような。

1984 のオマージュもなんかいまいちだった気がするし、用語の使い方もちょっとむりやりだったと思う。 シンクポルも体制側の思考警察なのに、ネット大多数の人間による私刑アプリの名前になってるし、シマムラタカシがビッグブラザーってのはなんか違うのでは?って思ってしまった。というかアメリカの大規模監視システムがビッグブラザーじゃなかった?1984 とあってないなーって思うのはディストピア感、悲壮感がぜんぜん描かれてないからかも。 自分は村上春樹の 1Q84 は読んでないからそっちのオマージュなのかもしれないなとは思ったけど。

ただ、シーズン1よりは楽しめたし、オチはオチでなるほどなーって思ったし、最後のシーンはお約束かなって。 唐突に少佐がネットは広大だわとかいうのは脈絡なさすぎって思ったけど。

この記事書きながらネットで感想探してたら、この人の感想がほぼ自分の感想を集約してたw

キャラデザとかはあまり好きになれなかったけど、ああいう試みはありかなとは思う。 新しいことやってかないとね。でも、なんかレンダリングが荒い?ところがあったように感じた。

あと、曲は全体的に好きだった。 Scott Matthew の曲があったのも SAC だなーと思ってよかった(トグサのシーンはちょっと強引だと思ったが)。

結局、SAC シリーズを見直すかという気持ちになったので明日から見直そう。

攻殻機動隊 SAC_2045 シーズン1をおさらいしたよ

攻殻機動隊 SAC_2045 シーズン1を見た。

www.ghostintheshell-sac2045.jp

シリーズ1が公開された 2020 年に一度見たけど、シーズン2が 5/22 に公開されるということでおさらいした。

攻殻機動隊は大学時代に SAC シリーズから見始めて、そこからはまって映画・アニメ・コミックの一通りは全部見てる(ゲームはやったことない)。

SAC シリーズはやっぱりおもしろいし、映画の Ghost in the Shell は何度見ても飽きないし、コミックス版の攻殻機動隊は読んでて興味深い(MANMACHINE INTERFACE はあまり理解できなかったけど)。 ARISE だけは何度か見たけどストーリーがなかなかつかめなくていまいちだったな。

SAC_2045 はキャラデザがちょっと好きになれないけどストーリー自体はそれなりに面白く感じた。 オーウェルの1984 がけっこう重要な役割を果たしているみたいだけど、1984 は昔読んでけっこう印象に残る本だったのでその影響もある。

シーズン2でどんなオチになるのだろうか。 何か Stand Alone Complex 的な現象につながるのかな。 単なる AI のウイルス感染オチで核ミサイルがーみたいな感じで終わるとちょっとかなしいなと思ったり。

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(c) The King's Museum